読了した本

『マイン(上)』ロバート・R・マキャモン

  • 単行本: 371ページ
  • 出版社: 文藝春秋 (1992/03) ASIN: 4163131302

出版社より
1990年度ブラム・ストーカー賞受賞作。第十長篇にして、マキャモンがホラー小説に「決別」したとされる区切りの一作。スーパーナチュラルな恐怖は排除され、サスペンス/犯罪小説の範疇に収まる作品となっている。


60年代の過激派活動の記憶をいまも抱えるメアリー。当時の妄執が臨界点を超え、狂気の域に達したとき、彼女はかつての恋人への「供物」として捧げるべく、幼い赤ん坊を誘拐、逃亡した。その子の母ローラは、幸福な生活をなげうって息子のために立ち上がり、かくてふたりの女の壮絶な戦いが開始される。


超自然的要素は皆無だが、物語自体は「恐怖」に照準が合わされている。動乱の60年代への郷愁をいくらか匂わせはするが、これまでにないほど叙情味や物語の「遊び」も排されており、徹底的な逃亡と追跡の物語、ひとりの子どもをめぐる激情の物語となっている。猛然と疾駆するヘヴィな力感は圧倒的で、ほかのマキャモン作品とは印象を異にする。マキャモン最大の異色作であるかもしれない。

※画像は文庫のもの