北風のうしろの国

今日は風が強い。私は風の音が大好きだ。部屋の中で風がゴウゴウと音を立てて吹き渡るのを聞いていると、頭の中ではそこはもうビルの谷間ではなく、枯れたヒースの野原か、回転草の転がる荒涼とした荒地か、あるいは一面が雪と氷に覆われた冷たい銀の世界かという想像をする。もしかしたら宮沢賢治の描くイーハトーヴの野原かもしれない。


夜中に吹く風だったら、生まれた町の人っ子ひとりいない通りを思い描き、小さな町を大きな風が揺さぶる様子を俯瞰で見る。時折風が古びたトタン屋根をはがして、夜の静寂を破り、騒音と共に運びさって行くのを想像したりする。家の中では人々が暖かな布団の中で目を覚まし、もう一度夢の中に戻るために、掛け布団を襟元にたぐり寄せる。


こんな風が吹く時、いつも思い出すのはジョージ・マクドナルドの『北風のうしろの国』というファンタジー。ダイアモンドという少年が北風に連れられ、あちこちを見て回る話だが、最後には北風のうしろの国に連れて行かれてしまう。すなわち「死」である。何か残酷なような話だが、凍えるような北風のうしろは、実は暖かいのだ。