マキャモン 『スティンガー』

マキャモンを読み始めたら他はどうでもよくなってしまうので、マラマッド・プロジェクトもあるし、ユダヤ関連の本も読まなくてはならないしで、ここしばらくは「おあずけ」と思っていたのだが、つい魔が差して、手にとってしまった・・・やっぱりマキャモンは面白い!


どんなとんでもない不良でも、マキャモンの手にかかると、いつの間にかヒーローになっている。敵対する不良グループのリーダー、リックとコディ。どちらも実はいい奴で、自分を犠牲にしても、誰かを守り抜くタイプ。これって、どちらがヒーローになるんだろう?どちらもヒーローの資格がある。下巻ももうすぐ読み終えそうなのだが、結末がどうなるかわくわくして、どんどん進んでいく。


状況設定がキングの 『Dreamcatcher』*1 に似ていないこともないのだけど、それよりはるかに展開がスピーディだし、はるかに品がある。キングのは、もう勘弁してよというくらい場面が汚かった(言葉だけでなくあらゆる意味で)。マキャモンのほうは、たしかに汚い言葉も頻繁に出てくるのだが、その後に必ず、「そんな言葉はダメよ」という旨の発言がある。そういうところが、いつもマキャモンらしいと思う。キャラクターの設定上、そういう言葉を使わざるを得ないから仕方がないのだが、一応注意は促してあるという次第。


最近、面白くて、ドキドキして、途中でやめられないという本にお目にかかっていなかったのだが、久々にそういう本に会ったという感じ。お風呂の中で読んでいると、いつの間にかお湯が冷たくなっている。長風呂になる原因はマキャモンだったのだ。


マキャモンの描くヒーローは、けして偉ぶったりしないし、特に見かけがカッコイイわけでもない。時にはヨレヨレのおじさんだったり、死にかけている中年男だったりするのだが、だいたいが心の優しい人間で、自分がヒーローになるなどとは思ってもいないのだけれど、結局そういう人間が人を救うのだ。そういうところに、いつもぐっとくる。これは個人の好みもあるだろうが、マキャモンの描くキャラクターは、私の感覚にストレートに入り込んでくる。


まだ読んでいない作品もあるので、全部が全部そうだとは言えないし、これまで読んだ中で、共感できない主人公もいるにはいた。それでも、毎回マキャモンっていい人なんだなあと思わずにいられない。ホラー小説なのに、読後がすがすがしく、暖かい気持ちにさせる作家なんて、今のところ他には見当たらない。作品=作家ではないとは言うけれど、フィクションの場合、ある程度は作家の性格は現れると思う。


さて、ヒーローはリックなのか、それともコディなのか?