ヴァンパイア奇譚

また血に飢えた時期がやってきた。というわけで、読書中のものは全部放って、トム・ホランド『渇きの女王―ヴァンパイア奇譚』*1 を読み始める。変に生々しいとは思うが、この時期に読むヴァンパイアものは、それだけにリアリティがあるってものだ。またこの時期は、小難しいものを読んでも、どうせ頭に入らないし。。。内容は、


血液学を研究する医師エリオットは、吸血鬼伝説が囁かれるインド国境で、身の毛もよだつ体験をしたあと帰英した。ロンドンで診療所を開いたが、悪夢は故国までも追ってきた。親友の一人が血を抜かれてテムズ川に浮かび、もう一人が失踪したのだ。友の行方を追うエリオットは劇場支配人ブラム・ストーカーと知りあい、二人はヴィクトリア朝ロンドンを跳梁する吸血鬼の正体をさぐっていく。


というもので、インド生まれの吸血鬼がロンドンで暗躍するという話。とはいえ、これは病気だと考えられていて、主人公である医師エリオットは、なんとかその原因をつきとめ、治療法を見つけようとするのだが・・・。


スタイルは、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』と同じようなもので、エリオットの日記と、周囲の人間の手紙、さらにブラム・ストーカー(のちに『ドラキュラ』を書く)の手記といったもので構成されているのだが、ドラキュラのようなカリスマ的な魔人が登場するわけではなく、今いち迫力に欠ける。この話の吸血鬼の親玉は、インドの女神破壊神カーリーってことになるのだろうか?絶世の美女が何人も登場して男を誘惑していくのだが、そのあたりがお手軽すぎるという感じもする。ま、ドラキュラも似たようなものか。


しかし、先述のブラム・ストーカーや、オスカー・ワイルドなど、実在の人物も登場し、また本書の登場人物の大部分が、『ドラキュラ』の登場人物の焼き直しといった感じで、そのあたりはキム・ニューマンのヴァンパイアものにも通じる面白さがある。600ページ近い大部の本だが、今日から読み始めて、すでに半分以上読んだ。


『ドラキュラ』を読んだときは、怖い!怖い!と思ったが、これは全然怖くない。謎めいた心霊的な描写がないせいか?たしかに死んだはずの人間が生き返るのは同じなのだが、いつの間にか生き返っていたというわけで、実際に棺おけからは出てこない。心臓を狙って殺せば、すぐに死ぬ。インド出身の吸血鬼というのも、イメージ的にピンとこないのかも。


あれこれ言えばきりがないのだが、ともあれ面白いので、どんどん進んでいくから、イライラも解消できる。