夏帽子

長野まゆみの本が全て良いとは言えないが、これだけたくさん読めば、中には傑作もある。今日読み終えた『夏帽子』もそのひとつ。宮沢賢治が好きな人ならば、この中に『注文の多い料理店』や『どんぐりと山猫』や『風の又三郎』のエッセンスを見つけ出すだろう。


先日読んだ『銀河電燈譜』は、賢治自身が銀河鉄道のような列車に乗っているという話だったし、長野まゆみ宮沢賢治に心酔しているのは、今更言うまでもないことだと思う。登場する不思議な少年が、実は狐だったり、ハクビシンだったりするのも、まさに賢治っぽい。


それはそれとして、この『夏帽子』は、やはり郷愁に満ちた、楽しくも切ない感じの話で、紺野先生という臨時教師が全国の小学校を教えて回る話なのだが、こんな先生がいたら良かったのになあ・・・と、子ども時代、教師には全く恵まれなかった私はうらやましく思うのだ。


夏帽子というタイトルも、何かお行儀が良い感じで、今の世の中には稀な(今や超有名人だが)、早実のピッチャー斉藤君のような爽やかさを感じさせる。子どもの頃、ハンカチと一緒に、夏は必ず帽子を被らされたものだ。それが、「夏」という明白な季節感にも繋がる。