わたしを離さないで

以前に原書 『Never Let Me Go』 を読んだけれども、ぜひ土屋政雄さんの翻訳で読んでみたかったので、図書館で借りて読んだ。原書でも最初は何の話だろう?と思ったが、やはり翻訳でも前知識がないと何の話かわからない。でも、土屋さんの訳で読んでみてよかった。もやもやしていたものが晴れた感じだ。


テーマは、読んでいるうちに少しずつ少しずつわかってくるのだが、それが学校の寮生活といったような当たり前の日常の風景の中に静かに織り込まれてくるので、何とも不気味なのだ。いきなりあっと思うわけではなく、徐々にそうなのか・・・いや、まさか?みたいな感じで、最後まではっきりしたことは書かれていない。


あまりに衝撃的なので、これはテーマを明かしてもいいものだろうか?と悩んで、原書の時には感想が書けなかったのだが、今回もやっぱりあまり詳細には書けない。しかも、文章に書かれていない部分が恐ろしいのだから(ホラーという意味ではない)、具体的に書きようがないとも言える。


登場人物であるヘールシャムの生徒たちは、一見普通の子どもたちなのだが、世間一般の人間とは決定的に違うところがある。とても怖い話なのだが、自分たちの運命を黙って静かに受け入れている彼らには、反抗心とかは芽生えないのだろうか?と疑問にも思った。


普通の人間のように育てられていながら、普通はそんなことはしないんじゃないかという部分もある。そのあたりはしっかり計算されて書かれているのだろうと思うので、そういう矛盾がまた、怖い。さらに言えば、普通という言葉で分けてしまっていいものかどうかさえわからない。


使命を終える・・・といった表現が、何ともぞっとする。ある意味でSF的な話だが、実際に起こりうるだろうという予感もあり、もしかしたらすでに起こっているかもしれないと思うと、なおさらぞっとする。それの是非はここで語ることではないと思うが、独特の静かな語り口でそんなことを書いてしまったイシグロは、すごいなあ!