原作 『ブロークバック・マウンテン』

映画「ブロークバック・マウンテン」の原作を読んだ。アニー・プルーは、これも映画になった『シッピング・ニュース』しか読んだことはないが、今回の作品を読んで、つくづく上手い作家だなあと思った。


この作品は量的には私の苦手な短編だが、長編を1冊読んだくらいの満足感があって、短編というものの意識が大きく変わった。優れた短編は、それだけの短さでも、十分に人生を語ることができるのだなと。


わざわざ映画と本を比較することもないが、泣きたい人は映画をどうぞという感じ。本も十分に感動できるけれど、プルーはもっと覚めた目で淡々と書いているので、じっくり読まないと、言外や行間で語っていることがわからないかもしれない。


つまりカウボーイと一緒で、余計なことはなにも言わない。書いていないのだ。私も映画を先に観ていなければ、細かい気持ちの動きなど、全然気づかなかったかもしれないなと思う。


米塚真治氏の翻訳に批判もあるようだが、個人的にはとても良かったと思う。淡々とした語りは直訳ではなくて、アニー・プルーの文体がそうだからだと思うし、会話もさりげなくて良かった。黒原敏行氏のコーマック・マッカーシーみたいで、私はとても好き。


もともと短編だから、100ページにも満たない薄い本で、紙質を厚くしたり、字を大きくしたりして、なんとかページ数を増やしているが、それでもこの本は大事にしたい1冊だ。ぜひアメリカの国立公園に持って行って、雄大な景色の中で読んでみたい。