ナイトワールド(上)

昨年末から、F.P.ウィルスンの本を好んで読んでいるが、今読んでいるのは、<ナイトワールド・サイクル>シリーズの最後のもの。これまで<始末屋ジャック>シリーズと併せて何冊も読んできたけれど、これが一番面白い。


今までどうしても評価が★3つ(限りなく4つに近いのだが)止まりだったのだが、これは文句なしに5つつけてもいい。ただし、これだけ読んでも面白いのかというと、そうではなくて、やはり最初から読まないと面白さがわいてこないという代物。


私は途中の『触手(タッチ)』を入手できなくて、それだけが未読なのだが、それ以外のものを全部読んでいるからこそ、最終的に全部のピースが合わさって、面白くなっているんだろうなと思う。ここには、始末屋ジャックも登場する。ここでクロスして、以降は<始末屋ジャック>+<ナイトワールド・サイクル>が合わさった形になっていくらしい。


この中で、ニューヨークのセントラルパークに大きな深い穴が開き(悪の化身ラサロムの仕業)、そこから毎夜化け物が飛び出し、生きているものを殺戮しまくるというところがある。昼間のうちは化け物が姿を現せないので、人間が街をうろつくわけだが、市内のあちこちで略奪が起こる。


こういう場面は、実際に起こったこととしてまだ記憶に新しい。ニューオーリンズのハリケーン被害の時の、あの略奪騒ぎだ。あの時、あれは黒人だからだという声もあったが、私はそうは思わなかった。明日をも知れぬ命の危機にさらされた時、人間にモラルなどなくなってしまうのだと思う。白人だからとか、黒人だからということは、全く関係のないことだろう。皆が正気を失ってしまうのだと思う。


そんな中で、わずかながらの人々が、正義とかそんなことも念頭になく、ただ忠実に自分の職務を遂行しようとする人たちがいる。消防士だったり、警官だったり、市民だったり、それはさまざまだが、そういう姿に、ふと胸を打たれる。