『コレクションズ』の父親のこと

ブックカフェが終わってしまったので、フランゼンの『コレクションズ』を読む勢いもなくなっていたのだが、図書館の返却日が迫っていることを思い出し、急いで残りを読んだ。やはり翻訳者の話を聞いたあとのほうが、なんだかよく理解できるような気がした。というか、最後のほうでは、あまりフランゼン節が出てこなくなって、大げさな修飾のない、ありのままの家族の姿が見えてきたというのもあるかも。

ともあれ、一時は途中で諦めようかとも思った本だったが、読み終えることができてよかった。父親が老いて、手足の自由がきかなくなり、頭も呆けてきて、家族に迷惑をかけるようになる。でもすっかり呆けているわけでもないので、自分で「けりをつけたい」と切望するところなどは、涙ものだ。

一見、頑固でわからずやの父親のように見えるが、彼なりの優しさやポリシーがわかったとき、一人の人間としての父親が浮かび上がってくる。それがなんとも悲しい。父親だから、男だから、というのがいいのかどうかはともあれ、「言わずにいる」ということは、それなりの覚悟がいることなのだと思う。

この本では、息子や娘、そして妻についてはその都度言及し、多くのページをさいているのだけれど、父親の本当の姿がわかるのは、最後の最後だ。どんなことをしてきたかということは書いてあっても、彼の心の奥底に触れるのは、本当に死ぬ間際のことなのだ。結局、父親とはそういうものなのかもしれない。家族の柱とは、良い悪いはともかくとして、何か一人で背負っていかなくてはならない重荷があるのだ。それをいちいち口には出さないだけなのだと、今更のように実感した。


〓〓〓 BOOK

◆読了した本

『コレクションズ』/ジョナサン フランゼン (著), Jonathan Franzen (原著), 黒原 敏行 (翻訳)
内容(「MARC」データベースより)
老境に入った夫婦は家族の絆の修正(コレクションズ)をクリスマスに託したが…。家族が陥った危難をシニカルに描き出し、現代人にまつわる悲喜劇を紡ぎ出す。全米図書賞に輝いたベストセラー小説の邦訳。